こんにちは!!
今回は『犬の僧帽弁閉鎖不全症』についてお伝えします。
本記事は、過去に私が寄稿したものを許可を得て転載しています。
無断での引用、転載は禁止しておりますので、ご了承ください。
■僧帽弁閉鎖不全症とは
僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)は、心臓にある僧帽弁がうまく機能せず、心臓自身の機能が低下してしまう弁膜症の一つです。
まず、僧帽弁について説明します。心臓は、全身から戻ってきた血液を肺に送ったり、肺から戻ってきた血液を全身に送るという「ポンプ」の働きをしています。そのため、心臓の中には血液が常に一定方向に進むための「逆流防止弁」が付いており、その中の一つに「僧帽弁」があります。
では、僧帽弁は心臓のどこに存在しているのでしょうか。心臓には4つの部屋があり、全身の血液を受け入れ、左心室へ送る「右心房」、それを受け、さらに血液を肺へ送り込むための「右心室」。また、肺から戻ってきた血液を受け入れ、左心室へ送り込む「左心房」。そしてその血液を全身へ送り出すための「左心室」という名前が付いています。それぞれの部屋の出口に逆流防止弁が付いており、僧帽弁は血液を左心房から左心室へ送り込むための逆流防止弁のことです。
僧帽弁閉鎖不全症は、この僧帽弁がうまく機能しなくなり、血液の逆流が生じることで様々な症状を引き起こします。
この病気は、高齢の小型犬に多く見られますが、キャバリアは、遺伝的にこの病気が発生しやすい犬種で、5〜6歳あたりから発症してしまうケースもあります。若い犬や大型犬では稀な病気です。
■僧帽弁閉鎖不全症の症状
僧帽弁閉鎖不全症は、病気の進行に伴って様々な症状を示します。ごく初期には目に見える症状は見られず、健康診断などで病院を受診した際、聴診で「心雑音」が認められます。
病気が進行すると、最も目立つ症状として「咳」が見られるようになります。特に夜中や朝方にかけて咳をすることが多いのですが、運動したり興奮した後にも目立つようになります。犬の咳は、人間のように「ゴホゴホ」とするのではなく、「カッ、カッ、グァーッ」というような一見嘔吐にも見える仕草をします。
また、心臓に負担がかかりますので、「なんとなく元気がない」「遊ばなくなった」「散歩の距離が短くなった」など、ついつい「年取ったせいかな?」と見逃してしまうような症状もポイントです。よって、気になり始めたら動物病院を受診するようにしてください。
さらに症状が進むと、咳がどんどんひどくなります。より苦しそうな呼吸、湿ったような咳、舌の色が悪くなる「チアノーゼ」を起こす、お座りの姿勢を保ったまま、胸を開いた状態になる、などの症状が見られるようになります。これは僧帽弁閉鎖不全症が悪化した時に見られる「肺水腫」の症状です。
また、末期になると食欲がなくなり、さらに失神を起こすこともあり、緊急的な状態になることもあります。
■僧帽弁閉鎖不全症の原因
僧帽弁閉鎖不全症は、僧帽弁自体が「粘液水腫(ねんえきすいしゅ)変性」という変化(弁が必要以上にふくらむなど)を起こすことで機能不全となります。しかし、なぜ僧帽弁がそのような変化を起こすのかわかっていません。
一方、肥満や不適切な食事は、心臓病のリスクを高めることがわかっています。肥満によって体重が増えると、それだけ全身が必要とする血液量が増えてしまいます。しかし、心臓の大きさは変わらないので、血液をよりたくさん送り出すためには、大きな負担がかかってしまいます。つまり肥満になると、心臓の仕事量が増えてしまい、それだけ早く老化してしまうのです。
また、食事の中でも「食塩」と呼ばれる塩化ナトリウムを取りすぎても心臓に負担をかけてしまいます。もともと犬は人間と比べて塩分の必要量がすごく少なく、総合栄養食の中にも食塩が多めに含まれているものもあります。さらに、人間の食事をおやつ代わりにもらっていると、かなりの塩分を摂取することになるため、注意が必要です。
■僧帽弁閉鎖不全症の予防及び治療法
残念ながら僧帽弁閉鎖不全症を予防する方法はありません。しかし、前述のように「肥満」や「塩分の高い食事」を管理することで、リスクを減らすことはできるかもしれません。
治療については、大きく分けて「外科療法」と「内科療法」に分けられます。
外科療法では、僧帽弁を再建する手術を行うのですが、うまくいけば劇的に良好な経過をたどることができます。しかし、全国的にも実施できる施設が限られています。
内科療法は、外科療法のように僧帽弁を修復することはできません。しかし、様々な薬を使うことで、心臓の負担を減らし、長持ちさせることで、寿命と生活の質を維持する治療がほとんどの病院で行なわれています。内科療法では、主には血圧を下げるお薬を使いますが、病気の進行に応じて、心拍数を調整するお薬や利尿薬、強心薬などを使うこともありますので、常に病気の状況を把握するための定期検査が重要です。
定期検査では聴診はもちろん、胸部レントゲン検査、心電図検査、心臓超音波検査、血液検査などを実施する必要があります。
僧帽弁閉鎖不全症の内科療法は、幾つかのガイドラインが整備されており、内科療法でもかなり犬の状態を良好に保つことができます。もちろん、最終的な治療方法はガイドラインに基づいたかかりつけの獣医師の診断によります。
その他にも、日常生活に気をつけることで良い状態を維持することができます。まずは心臓に負担がかかるような環境に気をつけます。特に暑さの管理が重要で、僧帽弁閉鎖不全症の犬は、本当に容易に暑さによる肺水腫を起こしてしまいます。暑い時期には外出を控えることはもちろん、お留守番をするにもエアコンによるお部屋の温度管理は必須です。
また、過度な運動や極度のストレスが心臓に負担をかけますので注意が必要です。
さらには心臓病用の食事に変更したり、安静時の心拍数(1分間当たりの心拍数)を定期的にチェックすることも治療の役に立ちます。
他にも脂肪酸のサプリメントが心臓の負担を軽減する可能性がありますので、そういったものを取り入れるのも良いかもしれません。
■まとめ
僧帽弁閉鎖不全症は高齢の小型犬に多く見られる病気です。ですが、初期症状はなかなか気づけるものではないため、獣医師による定期的な検診が重要になってきます。
多くの動物病院で実施されている内科療法は、完治までにはいたらなくとも、良好に犬の生活の質を維持することが可能です。治療の他にも暑さや運動、肥満対策など日常生活の中で、心臓への負担にならないような管理を心がけることにより、更に状態の良い生活を続けることができます。日頃の生活状況を確認してみましょう。
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