2022年07月17日  

犬の歯周病治療の移り変わり

こんにちは!
院長の西原です。

今回は、
【歯周病治療の昔と今】
についてお伝えします。

はじめに

大人の犬や猫って、
80%以上が、
何かしら歯周病の徴候を
持っています。

今も昔も、
犬と猫には、歯周病がつきまとっています。

つまり、昔っからペットに歯周病は
つきものだったのです。

そんな中、ここ20年で歯周病に対する
考え方が大きく変わりました。

今から、その考え方の移り変わりを
お伝えしますが、もしかしたら、
あなたの歯周病に対する考え方が、
古いままになっているかもしれません。

ぜひ、今の最新の獣医学に基づく
考え方をインストールして、
大切なペットの”健口”を
守ってあげてください。

【ペットの歯は抜けるもの?】

私が獣医師になる20年以上前、
実家の近所の動物病院の先生に
言われました。

犬や猫は歯周病になるもの。
それをいちいち治療してられないし、
歯周病が進行したら自然に抜けるから、
わざわざ治療しなくてもいいよ。

そんな考えでした。

今では考えられないですよね。

歯周病は進行すると、
眼窩下膿瘍
下顎骨骨折
など、恐ろしい合併症を引き起こします。

それどころか
心臓や肝臓、腎臓に
深刻なダメージを与えることがわかっています。

そんな恐ろしい歯周病を放置していた時代があったのです。。。

【手術のついでに歯石とっておく?】

私が獣医師になって間もないころ、
歯周病治療といっても、
全身麻酔をかけて治療する、
というケースはまれでした。

歯周病と言っても
「歯石がついてて
口が臭い」
くらいにしか
考えられていなかったのです。

そのため、他の手術などで
全身麻酔をかけるときに、
”ついでに”歯石をとることが
多くありました。

しかし、これも今では
非常に危険なことがわかっています。

まず、歯周病は口の中の細菌感染。
歯石を取ると、手術室中に菌が充満します。

つまり、他の手術では
「細菌を限りなくゼロにする」
ことが重要なのに、
ついでに歯石とりをすることで、
細菌が手術室中に溢れかえり、
かえって手術の感染リスクを
高めてしまっているのです。

さらには、「歯石とり」だけでは
歯周病の治療にならないどころか、
かえって歯周病を悪化させてしまいます。

歯石とりだけでは、
隠れた歯周病を見逃してしまいます。
でも、一見すると見た目キレイなので、
「良くなった」と勘違いし、
隠れた歯周病を進行させてしまうのです。

今では、「ついでの歯石とり」
なんてあり得ないです。

が、実は・・・
今でも一部の動物病院では
行われているようです。。。

【麻酔は危険だから・・・?】

つい数年前まで
多くの病院やサロンで
言われていたこと。

【麻酔は危険だから、
定期的な歯石とり

お家でのケアが
できれば大丈夫】

定期的な歯石とり

ここ数年
インターネットを中心に
「動物病院での全身麻酔は
非常に危険」
という考えが広がっています。

しかし実際は、
全身麻酔よりも
歯周病が進行するリスクの方が
はるかに、はるかに高いことが
わかっています。

麻酔をかけない歯石とりは、
歯や歯ぐきを傷つけてしまいます。

処置したその場では
キレイになっても
傷つけられた場所から
すぐに歯周病が再発します。

最悪の場合、傷ついた歯ぐきから
細菌が侵入し、発熱などの
合併症が引き起こされてしまいます。

自宅でのケア

これは人間と同じで、
それだけでは歯周病は防げません。

人間はほぼ毎日
朝晩は歯磨きをします。

さらにフロスを使って
歯間のケアも行います。

しかし、それでも歯周病を
防ぐことはできません。

3ヶ月ごとの歯科医院での
定期的なメンテナンスが
推奨されています。

その一方で、ペットの場合、
ほとんどは歯みがきは
十分にできていません。

ましてやフロスを使うことなど
ほぼありません。

そんな状況で歯周病を
予防することはできるでしょうか?

歯磨きガムやジェル

歯みがきができない場合
「歯みがきガムで予防できますか?」
とか
「このジェルを塗れば予防できますか?」
とご質問をいただきます。

これもやはり
そのような便利なものがあれば、
確実に人間で使用されているはずです。

これだけテクノロジーが発達しても
歯みがきというものがなくならないのは、
やはりそれだけ有効なもので、
それに代わるものは、未だにないのです。

もちろん、これらのグッズは
まったくのムダではありません。

使い方と目的をしっかりと
知っていただければ、
ペットのデンタルケアには
きちんと役立ちます。

このように、
【麻酔は危険だから、
定期的な歯石とり

お家でのケアが
できれば大丈夫】

という考え方も、
今では間違いどころか、
歯周病を進行させてしまう
ことがわかっています。

【現在の歯周病治療の考え方】

ズバリ結論
・日々のデンタルケア
・年に1回の定期検査&メンテナンス
(全身麻酔で行います)
・栄養学的アプローチ

この3点が非常に重要です。

【日々のデンタルケア】

もしかしたら
「前回で”お家のケアはダメ”
って言って他のでは?」

と思われるかもしれません。

それは
「日々のデンタルケア」
がダメなのではなく、
「日々のデンタルケアをすれば、
麻酔しての歯科処置は必要ない」
と思うことが
間違いだということなのです。

つまり、定期的な麻酔での処置を
きちんとしていれば、
おうちでのデンタルケアは、
非常に有効な手段となります。

じゃあその目的は?

それは、
年に1回の定期メンテナンスで
歯周病を進行させないようにする
ためです。

逆を言うと、
日々のデンタルケアが
できていないと、

1年に1回、麻酔で処置しても
歯周病は進行してしまうのです。

ただでさえ、
「年に1回の麻酔なんて大丈夫?」
と思っているのに、
それ以上となると、
さすがにイヤですよね。

だから、定期的な処置をしてても
ご自宅でのケアは重要になるのです。

ちなみに、
「毎年、全身麻酔をかけても
問題ないの?」
と思われるかもしれません。

麻酔回数と寿命には
なんの因果関係もありません。

たとえ、目に見えないレベルで
負担がかかっていたとしても、
歯周病を進行させるリスクの方が
はるかに高いのです!

【年に1回の定期検査&メンテナンス】

歯周病は、進行すると
歯周ポケットの奥へと
炎症が広がってしまいます。

そこは見た目では絶対に見えません。

しかし、そこを見逃すと、
歯周病は見えないところで
進行してしまいますので、
治療としては、
はっきり言って0点です。

ではどうやって見つけるのか?

歯科検査には様々ありますが、
一番のキモとなるのは、
歯科用レントゲン検査
なのです。

歯科用レントゲンは、
非常に小さいフィルムを
口の中に入れて撮影します。

しかし、
動物が、口の中に入れたフィルムを
かじってしまうと、
検査ができないどころか
機材が壊れてしまいます。

そのため、歯科用レントゲン検査では
全身麻酔で動物がかじらないようにする
ことが必須となります。

もちろんメンテナンス
(歯石除去や歯周ポケットの処置)
も、全身麻酔が必要です。

麻酔をかけずに
歯周ポケットの処置をすると、
歯ぐきを傷つけてしまいます。

さらには
嫌がる動物を抑えるため、
動物に過度の負担がかかります。

当院にも、
「無麻酔歯石とりをしてもらってから、
元気がない」
「その後から、口を触ると怒る」
といった理由で
来院されるケースがあります。

また歯周病は、細菌による
「感染症」
です。

傷つけられた歯グキから
細菌が体内に侵入して、
発熱などの全身症状を
引き起こすことも多々あります。

そのため、歯石とりだけでも
抗生剤など
感染症対策が必須です。

ペットサロンなどで
歯石とりを行った場合、
抗生物質は処方されないため、
処置後のトラブルが生じてしまいます。

こういったサロンでは、
「全身麻酔のリスク」
ばかりを強調して、
無麻酔での歯石とりのリスクは
ほとんど説明されないようです。

そのため、麻酔のリスクばかりに
目が入ってしまう飼い主の方が、
処置を承諾してしまうようです。

今では、
麻酔のリスクよりも
歯周病が進行するリスクの方が
はるかに悪いことが
明らかになっています。

決して無麻酔で安易な
歯石とりを行うのではなく、
動物病院で、しっかりとした
歯科検査

メンテナンス
を定期的に受けるようにしてください。

【栄養学的アプローチ】

実は歯周病と栄養には
深い関係があるようです。

「あるようです」
としているのは、
この話は、一般的な獣医学では
まったく語られていません。

私自身が、これまで
1000頭以上、
歯周病治療してきた経験
に基づいて、
間違いないことだと
考えています。

例えば
「手作りごはん」

一般的には
ドライフードと比べて
柔らかく、食べカスが多く出ます。

その結果、歯周ポケットや歯間に
食べカスが蓄積して、
歯周病を進行させてしまう。

そのように考えられています。

しかし、実際には・・・

当院では、
アレルギーで
体に合うドッグフードがない
ワンちゃん

あるいは
ドッグフードのリスクを理解されて、
より健康的に過ごしたい
ワンちゃん

などで
手作りごはんをオススメしています。

もう5年以上も取り組んでいますので、
実際に手作りごはんを
食べているワンちゃんの
歯周病治療をする機会も多いです。

その結果、明らかに
ドッグフードメイン
よりも
手作りごはん
を食べている犬の方が、
歯周病の進行が緩やかなのです。

その理由については、
私個人の推測でしかないため
ここではお伝えしませんが、
かなりはっきりした違いが
みられています。

このように、歯周病と栄養は
密接につながっているのは
間違いないと言えます。

まとめ

犬の歯周病は、
獣医療の発展とともに
その考え方や治療方法が
変わっています。

以前は、
仕方がない
歯石だけ取ればOK
というような
考え方がありました。

今では、そういった考えが
間違いだとわかっています。

さらに
無麻酔での歯石とりは
歯周病に良いどころか
隠れたものを見逃し、
余計に悪化させてしまいます。

歯周病の治療は、
しっかりと麻酔をかけての
正しい歯科検査と治療が
大切です。

そこからの
定期的な麻酔下での
歯科検査とメンテナンスが
いつまでも歯を残せる
唯一の方法です。

©森のいぬねこ病院