耳や皮膚のかゆみについて
~そのつらいかゆみ、もっとよくなるはず!~

耳や皮膚のかゆみについて

~そのつらいかゆみ、もっとよくなるはず!~

  • 薬は飲んでるけどあんまりよくならない
  • 薬をやめると、すぐかゆがる
  • アレルギー用フードを使っているのにかゆみが治まらない
  • シャンプーしてもすぐ臭いがでてきてしまう

そんなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度ご相談ください。確かに慢性の皮膚病は完治が難しいものも多いのですが、 もしかしたらもう少しかゆみを減らし、 ワンちゃんも人間も快適な生活が送れるかもしれません。

1.まずは正しい診断を

耳や皮膚のかゆみは、血液検査のように数字で表せるような「客観的な評価」が難しく、その診断は診察する獣医師の「主観」が非常に大きいと言われています。そのため、一般的な診療では確定診断までできることが少なく、治療が長引いた場合、飼い主様にとっては「何の治療をしているのかよくわからないけど、治らない」というように感じてしまうようです。
しかし症状が長引く皮膚病では、やはりほかの病気と同じく、きちんと診断した上で治療を続けていくことが大切です。もし、かゆみがなかなか落ち着かない場合は、まずは次のような検査を受けているかどうかを確かめてみてください。

  • 皮膚(耳)の状態を顕微鏡で確かめた
  • 皮膚を擦り取ってダニの検査をした
  • 毛を抜いて顕微鏡で検査した
  • 皮膚(耳)の細菌や真菌(カビ)の培養検査をした
  • 血液検査をした
  • ホルモン検査をした
  • アレルゲン特異的IgE検査をした
  • リンパ球反応検査をした

CHECK!

リンパ球反応検査

遅延型アレルギーと呼ばれるアレルギーを調べる検査です。遅延型アレルギーは、近年になって動物のアレルギーに関わっていることがわかってきました。そこで今までのアレルギー検査と合わせて実施することで、より効果的なアレルギーの治療を行えるようになりました。

しかし、食事のコントロールを行う上で、このリンパ球反応検査は非常に重要な検査ですので、受けたことがない方は、ぜひ検査されることをおすすめします。かゆみのある皮膚病を治療するには、どれも欠かすことのできない検査ですので、もし十分な検査を受けられていない場合は、ぜひあらためて検査・診断を受けられることをおすすめします。 特に「リンパ球反応検査」はここ最近の新しい検査で、よく「アレルギーの検査をしました」という方でもこのリンパ球反応検査までは行っていない方が多くいらっしゃいます。しかし、食事のコントロールを行う上で、このリンパ球反応検査は非常に重要な検査ですので、受けたことがない方は、ぜひ検査されることをおすすめします。

2.治療はトータルケアで

たとえば人間のアトピー性皮膚炎もそうですが、なかなか治まらない皮膚病は、完治が難しいものもあります。まずは上記のような検査を受けていただき、できるだけ診断をつけることが大切ですが、その上でアレルギーのように完治できない皮膚病と診断された場合は、治療をあきらめるのではなく、「かゆみを減らして、快適な生活を送らせてあげるための治療」を行ってあげることが大切です。

とはいえ治療と言っても、皮膚病の治療は”これだけやっていれば大丈夫!”というような治療方法は残念ながらありません。お薬はもちろん、フードやシャンプーなど皮膚に関する様々な治療方法を組み合わせて、トータル的にケアしてあげることで、たとえ治らない皮膚病でも、症状がかなり軽減することもあります。

以下に皮膚病で行われる各治療について、これまでの経験を踏まえた上でのポイントを記載しました。トータルケアといっても、一頭一頭にとってベストな治療の組み合わせというのは様々です。各治療でもその子に合った部分を”良いとこ取り”で取り入れていくといいかもしれません。

3.お薬は正しく使うことが重要です。

皮膚で使うお薬は大きく分けて、”感染をコントロールするお薬” とかゆみをコントロールするお薬”があります。

感染をコントロールする薬

感染性の皮膚病治療に使用するのはもちろん、感染が主原因ではない皮膚病で使用します。
それは、かゆみが長引くと、

  • 皮膚が
    かゆい
  • 皮膚のバリア機能が
    落ちている
  • 長引くと細菌や
    カビが増殖する
  • さらに炎症が
    強くなってかゆみが
    ひどくなる

という悪循環に陥ってしまいますので、その悪循環を断ち切るための治療の一つとして感染をコントロールするお薬を使用するのです。

かゆみをコントロールする薬

ステロイド、免疫抑制剤、抗ヒスタミン剤などが含まれますが、これらもやはりお薬の特性を理解した上で使用することで、より効果が得られるようになることがあります。

ステロイド

使い方さえ守れば本当に良くかゆみをコントロールしてくれます。ただしかゆみは抑えますが、かゆみの原因を治しているわけではありませんので、ステロイドでかゆみを抑えている間に、何かしら根本的な治療を併用することが重要です。

たとえば、アレルギー検査でフードをアレルギー食にした場合、その効果が表れるのに2~4週間ほどかかりますが、その間のかゆみを抑えるのであれば、ステロイドは非常に有効な薬といえます。しかし、その根本的な治療に取り組まず、ステロイドだけに頼っていると、さまざまな副作用に悩まされることになります。

抗ヒスタミン剤

抗ヒスタミン剤はステロイドほどかゆみを抑える効果はありませんが、組み合わせて使うことでステロイドの投与量を減らすことができます。

抗ヒスタミン剤はヒスタミン(かゆみを引き起こす物質の一つ)をブロックすることで効果を発揮しますので、体の中にヒスタミンが放出される前に使用することで効果を発揮するお薬なのです。ですので、かゆみが出てから使用するのではなく、かゆみが出る前から使用することが重要です。

免疫抑制剤

免疫抑制剤は、これも使い方を守ればの話ですが、ステロイドほど副作用がなく長期間投与できるといわれています。従いまして、どうしてもステロイドが手放せない状態のときは、このお薬を使うことで体の負担を減らすことができます。しかしやはり副作用がゼロというわけではありませんので、投薬間隔を空けていくなど、投薬量を減らす工夫は必要です。

外用薬

人間ではアトピー性皮膚炎の治療などでもかなりの割合で外用薬(塗り薬)を使用します。しかし、ワンちゃんやネコちゃんの場合は毛が密なため、外用薬が使用しづらいことと、皮膚の炎症はほとんどは見た目には正常に見える皮膚にまで達しているため、どこまで塗ればいいのかがわかりません。従って外用薬は人間ほど多くは使用されていません(もちろん局所的な皮膚炎や外耳炎では外用薬も効果的です)

4.体の中から皮膚をケア

普段の食事から吸収される栄養の実に30%が皮膚の代謝に利用されています。つまりそれだけ皮膚にとって食事というのは重要になります。ですのでなかなか治らない皮膚病の場合、そのコントロールの一環として食事を管理することもとても大きなポイントになります。

もちろん食物アレルギーを持っている場合は、アレルギーのもとになる原材料を抜いたフードを用いることが基本です。ここで、食物アレルギーの原因を特定した上でフードを選ぶにあたり、とても大切なのはアレルゲン特異的IgE検査とリンパ球反応検査の2つを必ず行うことです。

これまで転院やセカンドオピニオンで来院された方々のお話の中で、「アレルギー検査はやったんだけど、それでフードを変えてもあんまり良くならない」というケースが多いのですが、そのほとんどがアレルゲン特異的IgE検査のみ行っていて、リンパ球反応検査を行っていないのです(なぜその病院さんでリンパ球反応検査を行わないのかはわかりません・・・)。

ワンちゃんの場合、食物アレルギーと環境アレルゲンに反応するアトピー性皮膚炎を併せ持つ場合も多いのですが、それでもやはりこれらの検査でしっかりとフードを選んであげることで、かゆみが改善されることが多いと思います。

重要なのでもう一度書きます。アレルギー検査はアレルゲン特異的IgEだけでなく、リンパ球反応検査も合わせて実施することが、かゆみをコントロールするためには大切です。

5.シャンプーは諸刃の剣です。

シャンプー療法を検討するにあたり、2つの前提があります。

①かゆみ(=炎症)のある皮膚はバリア機能が低下している。

皮膚のバリア機能というのはいわゆる角質です。皮膚の表面は角質に覆われており、その角質が外界からの刺激や皮膚に常在する細菌や真菌とのバランスを保ってくれています。 しかし、かゆみがある皮膚は、その角質が破たんしており、角質の下にある生身の細胞が露出しているというような状態になります。この生身の細胞は刺激に非常に弱く、そのまま刺激にさらされていると、さらに炎症を強くしていまいます。

②刺激性のないシャンプーはない。

シャンプーの目的はもちろん汚れや古くなった角質を落とすことですが、その役割を担うのが界面活性剤、いわゆる”泡”です。そしてこの”泡”、どんなに低刺激といわれるものでも、刺激がゼロ、というわけではないのです。

なぜこのような前提を最初に書いたかといいますと、一般に行われているシャンプー療法が、ただただ皮膚に良いわけではない、ということをご理解いただくために必要なことだからです。

  • □ 皮膚炎がひどいから、この薬用シャンプーでしっかりとシャンプーして あげてください。
  • □ 臭いやべたつきがひどいから、このシャンプーで洗うとすっきりしますよ。

多くの場合、皮膚病になったらこのような形で薬用シャンプーを使うことがほとんどではないでしょうか。しかし、先ほどの前提条件を踏まえると、皮膚炎がひどい⇒皮膚のバリア機能が低下している⇒生身の細胞が露出しているということになります。

そこに刺激性がゼロではないシャンプーを行うとどうなるか?残念ながら、良かれと思って行ったシャンプーでさらに細胞を傷つけてしまうことになります。また、べたついた皮膚がすっきりするということは、それだけ角質溶解作用が強く、時には本来皮膚にとって必要な角質まで洗い流してしまうこともあります。

またそのような強い角質溶解物質が皮膚に残ってしまうと、今度はそれ自体が皮膚を傷つけてしまいます。つまり、従来行われてきたシャンプー療法もうまく取り入れなければ、逆に皮膚にとって害になることすらあるのです。

ただ、シャンプー療法自体は決して悪いものではなく、森のいぬねこ病院でも取り入れています。古い角質は放っておくと酸化します。そしてその酸化した古い角質は皮膚にとって刺激となりますので、取り除かなくてはいけないのですが、その時に非常に有効なのがシャンプーなのです。要はシャンプー療法も使い方によっては非常に有効なものなのです。

中にはシャンプーの仕方をちょっと変えるだけで、劇的に皮膚の状態が良くなったワンちゃんもいますし、ほかの治療方法をうまく組み合わせることで、アトピー性皮膚炎のように治らない皮膚病でも、ワンちゃんも飼い主様もご満足いただけるレベルにまで改善させることもできるのです。

©森のいぬねこ病院