歯石は放置するとトンデモナイことに!

~ペットの正しいデンタルケアとは?~

1.歯石って何?

ペットのお口を除いてみてください。ほとんどのペットでは、歯に黄色いものが付着していますが、それが歯石です。歯石は、歯垢が固まってその名の通り、“石”のように歯にくっついてしまったものですが、実はこの歯石、顕微鏡で見ると、細菌がウヨウヨしている、細菌の塊なのです。ですので、「口臭がする」、「歯石が付いている」だけってことで、放置していると、細菌の塊がどんどんペットに悪さをしてしまい、やがて「歯周病」を発症させてしまいます。

2.歯周病って危ないの?

もちろんです。歯周病は細菌によって引き起こされる病気ですので、立派な「感染症」です。人間では、”人類史上、もっとも感染者の多い感染症”としてギネスブックにも載っていますし、1歳以上のワンちゃん・ネコちゃんの約90%が歯周病に感染しているというデータもあります。歯周病が進行すると、歯の根っこがダメージを受けてしまいます。そうなるとペットへの負担はもちろん大きいのですが、治療としては「抜歯」を余儀なくされ、実際、多くのワンちゃんネコちゃんがこの”歯周病”で歯を失っています。さらに悪いことに、歯周病はお口だけでなく、全身にも悪影響を及ぼします。心臓や腎臓、肝臓に直接ダメージを与えることはもちろん、細菌ではがんや糖尿病、リウマチといった病気にも悪影響を与えていることがわかっています。

3.じゃあ歯周病の対策は?

大きく分けて、2つの取り組みが必要です。一つは、まずは付いてしまった歯石を完全に除去すること、そしてもう一つは、歯石・歯垢をつかないように予防することです。

1.歯石の完全な除去

歯石を取り除く方法は、大きく分けて、全身麻酔でのスケーリングと無麻酔でのスケーリングがあります。しかし、歯石を”完全に”除去するためには、全身麻酔でのスケーリングが必要となります。(無麻酔スケーリングに関しましては、最後に解説させていただきます)一見、どちらのスケーリングもしっかりと歯石を取り除くことができそうですが、実は、歯周病の治療や予防にあたって、もっとも大切なのは「歯周ポケットのスケーリング」なのです。そして、この歯周ポケットのスケーリングは非常にデリケートな作業のため、ワンちゃんやネコちゃんが動いてしまうと、逆に歯や歯茎を傷つけてしまいます。そのため、より安全に実施するために麻酔をかけての作業が必要になるのです。全身麻酔でのスケーリングの手順は以下のとおりです。

全身麻酔でのスケーリング

処置前の状況です。歯石が全体に付着し、歯がまったく見えないほど歯石に覆われています。

まず、歯科専用のレントゲン撮影を行い、目に見える範囲だけでなく、歯根など目に見えない場所の歯周病を確認します。これを行わないと、せっかく歯科処置をしても、すぐ歯周病が再発したり、場合によっては根尖膿瘍など恐ろしい病気に繋がることがあります。(ちなみにこのレントゲンの歯は、抜歯が必要な重度の歯周病です。

処置は、まずは超音波スケーラーで、おおまかに歯石を除去していきます。これだけでも肉眼的にはかなりきれいになりますが、実はスケーリングによって、目に見えない小さな傷がついてしまいます。

超音波スケーラーで落としきれない歯石はハンドスケーラーを使用し、手作業で細かな歯石を除去していきます。

歯周ポケット内の歯石や汚染物質を除去しています(ルートプレーニングといいます)。このあとさらにキュレッタージというものを行い、歯石で埋まっていた歯肉と歯根とが再付着しやすくする作業を行います。

プローブと呼ばれる器具を用いて、歯根の深さを測定しています。重度の歯石が付着すると歯周病も発生します。歯周病は放っておくと歯の根元を腐らせ、歯がぐらつくだけでなく、顔が腫れたり、鼻に膿がたまってしまうなど、重い病気を引き起こしてしまいますので、一本一本調べていきます。

歯石やスケーラーによる除去作業でついた細かな傷に対して、研磨を行います。研磨は2段階でおこなっており、まずはブラシをもちいて荒研磨を行っています。

次にラバーカップでの仕上げの研磨を行っています。仕上げ研磨でもちいるペースト剤には、細菌の増殖を抑える薬剤も含まれているため、傷の修復だけでなく、細菌のコントロールも行うことで、歯石の再付着をなるべく抑えることができます(付着を完全に防ぐとこはできません)。

最後に歯および口腔内を十分に洗浄して歯石除去処置が終了です。最初と比べるとより処置後の歯の輝きをご理解いただけると思います。このあとは再付着を予防していくための、おうちでのデンタルケアについて、動物と飼い主様、動物病院が一緒になって取り組んでいきます。

処置前

処置後

当院での歯科処置は、ただ歯石を除去するだけでなく歯周病の治療、そして再発のコントロールを重視しています。そのため、他院で歯石除去のみ実施され、数ヶ月のうちに口臭や歯周病が再発してしまうケースも多く受け入れさせていただいております。歯石や口臭でお困りの方は、ぜひ森のいぬねこ病院Hillsideまで、お気軽にお問い合わせください。

当院での歯科処置の料金の目安は、麻酔前の検査や全身麻酔、歯科レントゲンなど全ての診療を合わせておよそ10万円からとなります。ただし、抜歯が必要なケースなどでは価格が異なりますので、一度、歯科診察をさせていただいた上でお伝えさせていただければと思います。

無麻酔スケーリングについて

森のいぬねこ病院では、無麻酔スケーリングはお勧めしていません。無麻酔スケーリングでは、歯科レントゲンや歯周ポケットの処置など、歯周病治療において非常に大切な検査や処置を行うことができないためです。
しかし、現在、多くのペットサロンなどで無麻酔スケーリングが行われています。やはり全身麻酔のリスクがないことが魅力的に感じるかもしれませんが、実際に森のいぬねこ病院に来院される中で、無麻酔スケーリングを受けているワンちゃんのほとんどが、歯周病の発見が遅れてしまい、気付いた時にはほとんどの歯を抜歯せざるを得ない状況が続いています。また、無麻酔スケーリングによって歯が傷ついてしまっているケースも多く見られます。
これは明らかに全身麻酔のリスクよりも、無麻酔スケーリングで歯周病が進行してしまうリスクの方がはるかに高いことを示しています。また動物のスケーリングは、人間の歯科医師や歯科衛生士さんのようにライセンスが必要なわけではありません。つまり、素人の方が小手先のテクニックを学んだだけで動物の無麻酔スケーリングができてしまい、実際に行なっているところもあると聞きます。
このように、様々なリスクがつきまとう無麻酔スケーリングは、実施しないことをお勧めします。

2 .歯石・歯垢の予防

歯石がまだついていない若いワンちゃんやネコちゃん、あるいはしっかりと歯石除去を行った場合は、その後の付着を予防するため、デンタルケアに取り組まれることをおすすめします。ここでも、やはり予防のポイントは”歯周ポケット”です。そして、その歯周ポケットのケアができる唯一の方法は「歯ブラシを使ったブラッシング」です。まず、ワンちゃんの場合、歯垢は3~5日で歯石に変わります。そして一度歯石になってしまうと容易に除去できなくなってしまいます。

また、図の通り、歯垢は歯周ポケットから付きはじめますので、歯石を予防するためには、「3日以内に歯周ポケットの歯垢を落とす」ことが最も重要になります。森のいぬねこ病院では、このブラッシングについてもアドバイスさせていただいております。

森のいぬねこ病院では、このブラッシングについてもアドバイスさせていただいております。

4.じゃあ歯ブラシ以外のデンタルグッズは
役に立たないの?

そんなことはありません。残念ながら、歯ブラシによるブラッシングにとって代わるものはありませんが、他のグッズも一緒に使ってあげることで、より歯垢が付きにくい環境を作ったり、あるいはブラッシングのご褒美として使うこともできます。つまり、あくまで歯石を予防できる唯一の方法は歯ブラシによるブラッシングですが、補助的には効果大ですので、その使い方がポイントになるのです。

たとえばベジタルチュウ。これはやはり歯周ポケットの歯垢をかき出す働きはありません。しかし、成分が歯垢の付着を低減してくれますし、また「噛む」ことで唾液が分泌され、歯垢が付着しづらい環境になります(歯垢が付かないわけではありません)。ですので、ベジタルチュウの場合は”噛ませること”がポイントなのですが、多くの場合、そのまま与えてしまうと、すぐに食べ終わってしまい、なかなか噛んでくれません。そこで、このベジタルチュウのポイントなのですが、ただただ与えるのではなく、飼い主様が手に持って与え、きちんと噛み噛みさせてあげるのです。そうすることで、しっかりと唾液も分泌され、より良い口内環境が作られます。

このように、歯ブラシ以外のグッズもうまく使うことで、よりよいデンタルケアができるようになります。デンタルグッズにつきましても、スタッフまでお気軽にご相談ください。森のいぬねこ病院院長ブログでは、森のいぬねこ病院で実施させていただいた、デンタル処置の様子もご紹介しています。ぜひご参考にしてみてください。

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