こんにちは!!
今回は『犬の肺水腫』についてお伝えします。
本記事は、過去に私が寄稿したものを許可を得て転載しています。
無断での引用、転載は禁止しておりますので、ご了承ください。
■肺水腫とは
動物の体において、肺は「呼吸する」つまり、血液に酸素を送り込み、またその代わりに血液中の二酸化炭素を受け取って、体外へ排出させる役割を持った器官です。肺の中では「肺動脈」「肺静脈」といった血液の通り道と、「肺胞」と呼ばれる空気の通り道が密接しており、そこで酸素と二酸化炭素の交換が行われます。
何らかの原因で「肺動脈」あるいは「肺静脈」といった肺の血管に圧力がかかると、血液の液体成分が「肺胞」へ浸み出てしまいます。その結果、肺胞に酸素や二酸化炭素といった気体の入るスペースがなくなってしまい、呼吸ができなくなってしまうのですが、この病態のことを「肺水腫」と呼びます。
■肺水腫の症状
肺水腫が起こると、呼吸に関連した様々な症状が起こります。肺水腫になると酸素交換ができなくなってしまうので、少しでも空気を取り入れようとして、呼吸数が早くなります。ひどい場合にはパンティング(激しい運動後の「ゼハァ、ゼハァ」という呼吸に似ています)も起こし、呼吸も気管に液体が詰まっているような湿った音になります。
また、肺水腫では「咳」をするようになります。そこまで重度ではない肺水腫では咳も比較的乾いているのですが、重度になると痰(たん)が絡んだような感じの、湿った咳をするようになりますので注意が必要です。さらに肺水腫が進むと、舌が青紫色になる「チアノーゼ」という状態になったり、胸が苦しくて伏せたり横になれず、「おすわり」の状態のまま、眠れない状況に陥ることもあります。
肺水腫の原因によっては、失神が起きたり、場合によっては命に関わる状態になったりすることもありますので、注意が必要です。
■肺水腫の原因
もっとも多く見られる肺水腫の原因は、心臓病です。中でも老齢の小型犬でよく見られる僧帽弁閉鎖不全症による肺水腫が多く、他にも未成熟動物の心臓奇形や大型犬に多い拡張型心筋症、特に短頭種で注意したい熱中症、また血液中のタンパクが減ってしまう低蛋白血症でも肺水腫が引き起こされます。
特に老齢犬に多い僧帽弁閉鎖不全症の症状も、肺水腫と同じ「咳」ですので、気をつけないと肺水腫を見逃してしまう可能性があります。また、熱中症は短頭種で非常に発症リスクが高いものですが、僧帽弁閉鎖不全症の犬も同じように高リスクです。僧帽弁閉鎖不全症の犬は、「少し呼吸が早いな」あるいは「いつもより咳が多いな」と感じた時点で、なるべく早く動物病院にかかることが重要です。
■肺水腫の予防及び治療法
肺水腫は命に関わる重篤な症状なので、予防が大切です。特に老齢犬の僧帽弁閉鎖不全症では、肺水腫を併発するとかなり危険な状態になってしまうため、その手前でできる限り予防してあげることが大切です。そのためには、僧帽弁閉鎖不全症をはじめとした、肺水腫のリスクとなる原因疾患の治療をきちんと行うことが何よりも大切です。
特に老齢犬の僧帽弁閉鎖不全症はまだまだ完治が難しく、病気をうまく管理していくために定期的な心臓の検査も必要です。また、僧帽弁閉鎖不全症になってなくても、年を取ってきたら定期的に聴診を行い、異常が見られた場合には、積極的に精密検査を実施することをおすすめします。
肺水腫は暑さが大きな発症要因になりますので、生活環境の温湿度調節が重要です。特に梅雨時期のようなジメジメした気候、あるいは春先から秋口にかけての気温が上昇しやすい時期は、特に僧帽弁閉鎖不全などの心臓病を患っている犬や短頭種は、積極的にエアコンのドライや冷房を使ってあげたいところです。もちろん、たとえエアコンが効いていたとしても、車内でのお留守番は厳禁です。
肺水腫の治療は、放っておくとどんどん悪化していき、命に関わる状態に陥りますので、緊急的な対応が必要です。
まずは肺の中に残ったわずかな呼吸スペースに効率よく酸素を送るために、酸素吸入を実施します。また、体温上昇が肺水腫の病態を悪化させますので、体温が高い場合には体を冷やします。
さらに利尿剤や血管拡張剤によって、肺に溜まった水を減らす治療を行います。僧帽弁閉鎖不全症など原因疾患の治療を行わないと、肺水腫がすぐに再発してしまいますので、それらの治療も進めていきます。
■まとめ
肺水腫は僧帽弁閉鎖不全症や熱中症によって肺に水が溜まってしまい、呼吸困難を引き起こす非常に危険な病状です。肺水腫が疑われた場合、速やかに動物病院を受診することはもちろんですが、肺水腫にならないよう、暑い時期の温度管理や、普段からの病気の管理をしっかりと行い、予防してあげることが何よりも重要です。
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